お客さまのところへ料理が提供されるまでの工程、および下膳から食器収納までの工程の中で、「運搬」と、それに付随する「積み込み・積み換え・取り出し」といった作業がいかに多いかを、前回確認いただいた。料理にからむ流れを代表的な例として見たが、旅館にはそれ以外にもさまざまな「運搬」を伴う業務がある。ではこれらを合理化していくにはどんなことをしていけばよいだろうか? それについて考えていきたい。
(7)運搬改善の着眼点
(ⅰ)運搬しないことを考える
まず運搬しないで済ますことができないか考えてみよう。つまり物の場所を変える必要がないようにすること、言い換えれば、物の置き場所をそのまま使う場所や作業の場所にすることである。
わかりやすいのは道具類だ。わざわざ離れた場所に取りに行く無駄を省こう。道具は道具で、分野ごとに1カ所にまとめてしまっておくというのが一般的なモラルだが、毎日繰り返す作業のために使う道具は、作業の場所に置いておくのがよい。乱雑にしておくこととは違う。作業台の下に収納するなど、整理整頓はその前提でいくらでもできることだ。
また毎日使う食器類をその都度「食器庫」に収納している旅館も多いが、スペースが許すなら、洗い上がったものはなるべくそのまま近くに置いて、翌日またそこから使うようにするだけで、運搬や出し入れといった作業を大幅に減らすことができる。ホコリや水がかからないためには、フタ付きのプラスチックコンテナを使用するとよい。
(ⅱ)運搬距離を短くする
物のレイアウトを合理的にすることだ。バックヤードの改装など行う際には、作業に関係する設備や機器のレイアウトをよく検討する。例えばプレハブ冷蔵庫や食品庫は、あちこちの空いている場所に適当に設置するのでなく、なるべく調理場近くで1カ所にまとめることが望ましい。
レストランなどである程度の広さがある場合、頻繁にサービスする必要のあるものは会場内に1カ所ないし複数のステーションを設けて、そこから提供するのが合理的である。大人数の宴会なら、飲み物ステーションも1カ所である必要はない。
(ⅲ)良い置き方を考える
「床にジカ置き」が最悪であることは前にも述べた。「ジカ置き」や「バラ置き」を避けるのは運搬合理化の鉄則だ。
対象物の運搬のしやすさを定量化したものに「運搬活性示数」と呼ばれる尺度がある。
・バラ置き‥0
・まとめ(箱入り)‥1
・起こす(枕付き)‥2
・持ち上げ(車上)‥3
・移動‥4
すでにおわかりと思うが、数字が大きいほど運搬しやすい状態にあることを表わしている。「4」にいくつ足りないかが、運搬のため次にしなければならない作業の数でもある。例えばバラ置き状態のものは、これを運ぶまでに「まとめて箱に入れる」↓「箱を起こす」↓「持ち上げて台車に積む」という作業が必要になる。これを省くには、初めから箱に入れておく、しかも箱ごと台車に載せておくことである。
何でもこういうやり方をするのが良いとは限らない。しかし毎日多量かつ反復的に扱う運搬物については、一度この観点から検討してみる価値がある。
(株式会社リョケン代表取締役社長)